トピックス

2025.11.28

J-PARC News 第247号

PDF(514KB)

≪Topics≫

 ハイパーカミオカンデ中間検出器施設の着工式を開催(11月4日)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、新たに設置する中間検出器(Intermediate Water Cherenkov Detector: IWCD)施設の着工式を行いました。この施設はJ-PARCのニュートリノ施設で生成した人工ニュートリノを約1km離れた場所で検出するものです。既にJ-PARCに設置されている前置検出器と連携させることにより、ハイパーカミオカンデ実験で測定するニュートリノ振動(飛行中にニュートリノの種類が変身する現象)をこれまで以上に高精度で測定することが可能となります。
 浅井祥仁KEK機構長は、「この検出器を使った東海での測定とハイパーカミオカンデを使った神岡での測定を比較することにより、従来なら10年かかっただろう発見が5年で可能となるくらい重要な検出器である」と述べました。
 2028年にはハイパーカミオカンデが供用開始し、J-PARCでも陽子ビームパワーを750kWから1.3MWに増強してニュートリノの供給量をさらに増やす予定です。これに合わせて中間検出器も2028年度の観測開始を目指しています。
詳しくはこちら(KEK HP)https://www.kek.jp/ja/topics/202511111200iwcd

news247_1.jpg

 

 

■ 受賞

 日本鉄鋼学会2026年澤村論文賞

 本賞は2024年の「鉄と鋼」及び「ISIJ International」に掲載された論文の中から学術及び技術上有益な論文に授与されるものです。このたび、東北大学 金属材料研究所の張咏杰氏、丸澤賢人氏、工藤航平氏、日本原子力研究開発機構 物質科学研究センターの諸岡聡氏、J-PARC物質・生命科学ディビジョンのステファヌス ハルヨ氏、東北大学 金属材料研究所の宮本吾郎氏、古原忠氏が受賞することに決まりました。
 受賞論文はJ-PARCにある工学材料回折装置 「TAKUMI」を使用した研究成果であり、高炭素マルテンサイト鋼の低温焼戻し過程を中性子回折、電子顕微鏡、3次元アトムプローブなどを駆使して多角的に解析し、炭素拡散による炭化物析出や格子変化を体系的に解明したものです。これにより、靱性・延性の確保に重要な知見が得られ、焼戻し過程の理解および鋼材性能の予測精度向上に大きく貢献しました。
 授賞式は、2026年3月に行われる予定です。

news247_2.jpg

 

 

■ プレス発表

(1)日米のライバルグループが協力してニュートリノ研究を推進(10月23日)

 宇宙が誕生した時には物質(粒子)と反物質(反粒子)は同じ数だけ存在していたはずなのに、現在では反物質がほとんどなくなり物質だけが残っています。その理由は、いまだに分かっていません。物理学者たちはニュートリノ振動について、粒子であるニュートリノとその反粒子の反ニュートリノの間に差があるかどうか詳しく調べることで、その答えに近づけるのではないかと考えています。
 日本のT2K実験と米国のNOvA実験の2つの異なる実験グループにおいて、ニュートリノ振動の共同解析を実施した結果、ニュートリノの質量差に関する不確かさを2%未満に縮小することに成功しました。また、質量秩序の決定、すなわち3種類あるニュートリノのうち、どのニュートリノが最も軽いかの決定には至らなかったものの、その並び方によっては粒子・反粒子間の対称性であるCP対称性の破れの大きさに大きな制限がかかることが分かりました。
 今回の共同解析では、ニュートリノ振動の精密測定や宇宙の物質と反物質の非対称の起源解明に近づく一歩となるとともに、競合しながらも補完的な協力関係を築くことができました。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/10/23001630.html

 

 

(2)p波磁性体と呼ばれる新しいタイプの磁性体を実現
 -電流を用いた高効率な磁化制御などへ期待 -(10月23日)

 電子スピンの向きによってエネルギーに違いが生じることを「スピン分裂」と称し、その対称性によりs波、p波、d波と分類することができます。その中で逆向きに動く電子のスピン分裂の符号が反転するようなp波型スピン分裂は理論的には古くから予言されていたものの、実際に安定した物質中では観測されず、格子周期と整合した原子スケールの金属p波磁性体はこれまで報告例がありませんでした。
 本研究では、希土類金属化合物Gd3(Ru, Rh)4Al12(Gd:ガドリニウム、Ru:ルテニウム、Rh:ロジウム、Al:アルミニウム)に着目し、共鳴X線散乱およびJ-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF) 特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置「SENJU」及び中性子小角・広角散乱装置「TAIKAN」を用いて磁気構造を詳細に調べたところ、全てのスピンが同一平面上で回転する共面的ならせん磁気構造であり、金属p波磁性体の存在を実験的に実証することができました。さらに、集束イオンビームを使用してマイクロスケールのデバイスを作成して測定した結果、p波スピン分裂の理論から期待される電気抵抗の異方性を観測することができました。
 本研究成果は、電子スピンが交互に逆方向を向く反強磁性体を用いたスピントロニクスや量子デバイスの応用研究への貢献が期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/10/23001627.html

 

 

■ J-PARCハローサイエンス「ミュオンに恋して~究極の精密測定で挑む宇宙のひみつ~」(10月31日)

 99回目となるJ-PARCハローサイエンスは、物質・生命科学ディビジョンの西村昇一郎氏が講師を務めました。
 “もの”をより正確に測る「精密測定」を進めていくと、私たちがこれまでに学んできた物理の法則が本当に正しいか検証することができます。さらに、今の理論では説明できない、新しい法則を見つける可能性もあります。
 精密測定のキーアイテムとして注目されているのがミュオンです。ミュオンは、実験で追えるほどの寿命と電子より大きな質量を持ち、他の素粒子と適度に相互作用することから、人間にとって扱いやすい素粒子とされています。宇宙を構成する素粒子の一つであるミュオンの性質を詳しく調べることで、宇宙の創成や物質・反物質の対称性、ダークマターの正体など、宇宙にまつわるさまざまな謎に迫る手がかりが得られると期待されています。
 「ミュオンの研究者はミュオンが大好きすぎて、ミュオンのことをもっと知りたいんです」と語る西村氏。J-PARCで生成する大量のミュオンを用いて、その質量や寿命などを究極まで測定し、現在の常識を超える新しい発見や未解明な宇宙の謎に挑戦していきたいと話しました。
※ミュー粒子のことを「ミュオン」または「ミューオン」と表す。

news247_3.jpg

 

 

■ J-PARC出張講座

(1)茨城高等学校・中学校(11月15日)

 「未来を拓く加速器 過去を語る古墳 ― 文理融合の学び」というテーマで、茨城高等学校が母校である加速器ディビジョンの高柳智弘氏が講師を務めました。
 J-PARCの紹介、東海村で進められている古墳プロジェクトを題材とした文理融合という新しい学び方や地元で働くことの魅力など、講師の熱い思いがあふれた講義となりました。講義は、放課後、自由参加形式で行われ、大会議室にて中学2年生~高校2年生までの43名が参加しました。生徒から、「ビームのエネルギー損失はないのでしょうか?」など、研究者さながらの質問もありました。
 最後に、後輩へ「40歳の自分を想像して人生目標をたてよう!そして、今やるべきことは何か、今やっておくことは何かを考えてみよう。あの日の努力が今日を作る。」というエールが送られました。

news247_4-1.jpg

 

 

(2)香川高等専門学校高松キャンパス(11月17日)

 香川高等専門学校高松キャンパスにおいて、本科4年生を対象に、加速器ディビジョンの大谷将士氏が「ミクロの世界を見る加速器のしくみ」と題する講演を行いました。
 加速器の原理から、産業・医療といった広い分野での応用利用についての紹介や、最新の技術開発等について紹介しました。「もっとミューオンについて深く知りたい」などの感想が寄せられました。

news247_4-2.jpg

 

 

■ ミュオンにコーフンクラブ 「歴史と未来の測定器2号」を設置(11月16日、東海村舟塚古墳群2号墳)

 「歴史と未来の測定器2号」を、先月のこのクラブで決まった場所に設置しました。穏やかな秋の日、子供や保護者20人が見守る中、「歴史と未来の測定器2号」が巨大なクレーンで青空高く吊り上げられ、静かに降ろされました。
 この測定器は、去年設置した「歴史と未来の測定器」1号との2台体制で宇宙ミュオンの測定をすることになります。これにより、今後は舟塚古墳群2号墳の中に石室(空洞)があれば、立体的に映し出すことが可能となります。

news247_5.jpg

 

 

■ 加速器運転計画

 12月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

news247_6.jpg

 

 

news219_sanpo.png

 

 

J-PARCさんぽ道 64 -秋の暖色と寒色-

 J-PARCの敷地にある森は、さまざまな種類の樹木に覆われています。10月上旬まで続いた暑さが終わったと思うと急に気温が下がり、落葉樹の紅葉が一気に進みました。気の早い木々は既に葉を落とし、ドングリが落ちた地面にはすっかり角度が低くなった日光が穏やかに差し込んでいます。気の長い木々はまだ赤や黄色の葉をつけたままです。秋の森は1年のうちで最も温かい色に包まれています。
 一方で、目を上げると、澄んだ青い空がどこまでも遠くまで続くように見えます。その中には、白く細かい雲の筋が規則正しく並ぶ波状雲がくっきりと現れています。波状雲は、地上5kmから13kmという高いところにできる、秋を代表する雲です。秋の空は、これから訪れる冬を予期するかのように、澄んだ寒色に包まれています。

news247_7.jpg