物質・生命科学の研究

物質科学・生命科学の研究を行う施設

原子・分子を照らす「巨大な顕微鏡」

 物質中での原子や分子は、人間社会に例えると個々人やグループにそれぞれ対応し、その振る舞いは物質の性質と密接な関連があります。逆にいうと、原子や分子のふるまいを細かく調べれば、物質の機能を制御するための「仕組み」の深い理解につながり、また想像していなかったような新しい機能を発見することもあります。このような研究により、より高品質な材料の開発や、創薬の効率化が可能になると期待できます。

 このような目的のために、物質・生命科学実験施設(MLF)では、ほぼ光速(光速の97.12%)まで加速した陽子を炭素、水銀の標的に衝突させることで、それぞれミュオン、中性子のビームを作り出しています。これらのビームは世界最大級の明るさで試料を照らすことができる「巨大な顕微鏡」として、科学の発展のための基礎研究から材料開発などの応用研究まで、幅広い分野の研究に用いられています。

MLF実験ホール

MLF実験ホール

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MLFのサイエンス

物質科学:材料となる物質の機能と構造を見る

 リチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコン、大きなものでは電気自動車にも使われ、電化の進む現代社会に不可欠な技術です。一方、その利用範囲をさらに広げるためには性能と安全性のさらなる向上が必要とされており、MLFでも中性子やミュオンの特長を生かした研究が行われています。

 電池の中で、リチウムはイオンという状態をとり、電解液という液体の中を移動することによって放電や充電が起きる仕組みになっています。しかし、電解液は燃えやすい性質も持っているため、電極が発熱すると電解液が燃えてしまい、重大な事故を引き起こしてしまう可能性があります。このような事故を抜本的に解決するために、燃えやすい電解質ではなく、固体を使ったリチウムイオン電池の開発が進められており、MLFでも中性子・ミュオンを使ってイオンの位置や動きを調べ、より高性能な電池材料を開発するための研究が行われています。

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円筒型リチウムイオン電池

 

生命科学:生命を司る物質の機能と構造を見る

 MLFでは我々の体を構成しているタンパク質に関する研究も行われています。タンパク質には様々な役割がありますが、たとえば酵素も実はタンパク質でできており、鍵(標的)と鍵穴(酵素)のように結合することで標的を分解・結合させることができます。そのため、酵素が働く仕組みを解明するためには、標的に結合する様子を調べることが重要です。

 鍵である酵素はゆらゆらと動いて鍵穴に導かれた方がうまく結合するため、その動きを調べることによって効率的に働く酵素が推測できれば、病気の治療に繋がる薬剤の開発に繋がると期待できます。また、中性子を用いると、酵素と標的を色分けすることができるため、酵素が標的に結合する様子をよりはっきりと識別できるというメリットがあります。