トピックス

2022.02.25

J-PARC News 第202号

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■J-PARCプレス勉強会を開催(2月8日)

 今年1月に、素粒子の標準理論を超える物理の探索や、生きた細胞まるごと1個の機能を観察するための二刀流の新兵器「超低速ミュオン」を応用する新ビームラインが物質・生命科学実験施設(MLF)に完成しました。その超低速ミュオンを利用して繰り広げられるサイエンスと技術について、プレス向けに解説し、質疑応答を行う場を設けました。メディアからは14社18名の方々がオンラインで参加されました。
 ミュオンは電子の約200倍の質量を持つ素粒子で、ピラミッドや火山、文化財などの内部を非破壊で観察することができます。KEKでは加速器技術を駆使し、光速に近いミュオンを1万分の1にまで減速した超低速ミュオンの開発を進めてきました。超低速ミュオンの向きや速度を揃えて光速の80%まで再加速することにより、新しい物理法則の兆候を探るg-2/EDM実験やミュオニウム精密分光実験、電子顕微鏡より内部を調べられるミュオン顕微鏡による観察ができるようになります。今回MLFにS2エリア、H1エリアが新たに稼働したことで、超低速ミュオンを多角的に利用した研究が本格的に始動しました。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2022/02/01000796.html

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■プレス発表

(1)ヒドリド超イオン導電体の発見(1月14日)

 負の電荷をもつ水素イオン"ヒドリド(H-)"が電荷輸送を担う超イオン導電体を初めて創出しました。 固体内を水素が拡散するイオン導電体は、燃料電池を始めとした水素エネルギーデバイスに利用されています。一般的には正電荷のプロトン(H+)が電荷輸送を担うことが知られています。一方で、一価、適度なイオン半径、大きな分極率といった高速イオン導電に適した特徴を有するH-のイオン導電現象を、電気化学デバイスに応用することができれば、蓄電においては高エネルギー密度化が、発電や物質変換においては高い反応性をもたらすことが期待できます。分子科学研究所の小林玄器准教授らは、J-PARCの中性子回折装置「SPICA」と「NOVA」で実施した測定などから、超イオン導電体BLHOにおいて、H-のイオンの導電率が1,000倍程度上昇する結晶構造の変化(相転移挙動)を明らかにしました。H-導電体の研究の電気化学デバイス開発への新たな展開が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2022/01/14000784.html

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(2)次世代太陽電池材料が高効率性を発揮するメカニズムを解明
 -ミュオンによる観測・評価法を活用、より高効率で低コストの材料開発へ期待-(1月21日)

 持続可能・再生可能なエネルギー源として注目が集まる太陽電池の次世代材料として有望視される有機無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物は、ペロブスカイト格子の中に低対称な形状の有機分子を閉じ込めた構造を有します。太陽光から電気を生み出す効率が高く、その理由は、結晶中で電気エネルギーを運ぶ電荷キャリアが長寿命であることと考えられていますが、メカニズムは分かっていませんでした。
 J-PARCセンターの幸田氏、門野氏(KEK)らは、その典型物質であるヨウ化鉛メチルアンモニウムについて、J-PARCの汎用µSR実験装置「ARTEMIS」を用いてミュオンスピン回転(µSR)法による測定を行い、有機分子の回転運動とキャリア寿命との関係を調べました。ミュオンは、生成時にはスピン(磁石の性質)の向きがそろっていますが、有機分子中の原子核由来の磁場の変化を感じてその向きがバラバラになっていきます(緩和という)。温度が上がると有機分子は熱励起により回転運動が速くなり、磁場の変化が平均化され、ミュオンスピンは緩和できなくなります。測定の結果から、温度が低く、有機分子の回転速度が、ミュオンスピンが緩和できる程度の適度な速さのときには、電気双極子を持つ有機分子は電荷キャリアに追随して動き、電荷キャリアが正孔と再結合して消滅するのを遮蔽するので、その結果、キャリア寿命が延びるというメカニズムが示されました。本成果が、より高効率で安価な太陽電池材料の開発につながると期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2022/01/21000787.html

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■加速器運転計画

 3月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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■お知らせ

(1)「第16回東海フォーラム」2月28日~動画公開

 原子力科学研究所、核燃料サイクル工学研究所及びJ-PARCセンターの現状と今後について報告を行う「第16回東海フォーラム」は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため対面開催及びオンライン配信を中止し、内容を収録した動画を2月28日(月)に公開いたします。
核燃料サイクル工学研究所ホームページからご覧ください。https://www.jaea.go.jp/04/ztokai/forum/index.html

 

(2)「文部科学省 情報ひろば」にて企画展示
 「素粒子は語る 〜第2世代粒子で解明する素粒子・原子核のナゾ〜」を開催(2月16日~3月22日、東京・霞が関)

 文部科学省 情報ひろばにて、企画展示「素粒子は語る ~第2世代粒子で解明する素粒子・原子核のナゾ~」が開催されています。ポスター・映像展示に加え、原子核・ハドロン模型の展示と、動画を見ながらミュオンの歳差運動について学習できるコマの配布等を行っています。是非お立ち寄りください。
詳しくはJ-PARCホームページからご覧ください。https://j-parc.jp/c/topics/2022/02/16000832.html
「素粒子ミュオンとコマって似てる?!コマを回して確かめよう!」動画はこちらから。https://www.youtube.com/watch?v=LcC-GPFYANQ

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(3)第2回J-PARCオンライン講演会
 「素粒子クォークが作り上げた宇宙の多彩な物質-その解明に挑むJ-PARC-」(3月25日午後1時30分~3時、YouTubeライブ配信予定)

 宇宙における物質の誕生と進化の壮大なドラマを明らかにしたい!J-PARC加速器を使った研究の最先端を紹介します。講師は東北大学理学研究科 田村裕和教授、J-PARCセンター素粒子原子核ディビジョン 澤田真也教授です。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/

 

 

■J-PARCハローサイエンス「続・ニュートリノをたくさん作って調べる」(1月28日)

 講師は素粒子原子核ディビジョンの中平武氏で、オンラインのみの開催になりました。J-PARCでは30GeVまで加速された3×1014もの陽子を黒鉛の標的に当て、π中間子を発生させます。π中間子はミュオンとµニュートリノに崩壊し、発生したµニュートリノは300km離れたスーパーカミオカンデに向けて地中を進みます。その間にニュートリノ振動により、一部のµニュートリノが電子ニュートリノに変化するのですが、その変化の確率がニュートリノの場合と反ニュートリノの場合で異なります。これがCP対称性の破れになります。
 さらにJ-PARCではMRとニュートリノの出力を増強し、前置検出器も改良中です。T2K実験は2026年度までに電子ニュートリノと反電子ニュートリノの出現を約200事象程度検出することを目指しています。その後、建設中のハイパーカミオカンデを用いた新しい実験では、2027年度から10年間にこの事象をそれぞれ約3,000程度観測することを計画しています。

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J-PARCさんぽ道 ⑳ -ニュートリノ電磁ホーンの交換-

 ニュートリノ施設の出力増強に伴う改良の一環として、ターゲットステーションに設置されている電磁ホーンを交換することになりました。電磁ホーンはπ中間子を収束させるもので、楽器のホルンに似た形からこの呼び名がつきました。
 まず30トン以上にもなる遮蔽体をクレーンで吊り上げます。ターゲットステーションには設置された40台ものカメラが一斉に作動し、操作室のモニターに映し出されます。狭い操作室では常に5人以上の担当者がいますが、実際のクレーン操作はひとりで行い、ほかの作業員はそれぞれ持ち場の現状をモニターで確認します。ガイドセルからの取出し、設置時は毎秒5mmの超低速で慎重にクレーンを動かします。モニターを最大限に拡大してやっと分かるくらいの動きを続けて数十分、クレーンで吊るされた支持モジュールの下に、第一電磁ホーンが顔を出しました。
 電磁ホーンは数多くあるJ-PARCの機器の中でも最も優雅と言われています。設置されてから既に8年、大量のπ中間子を収束させ、自らは放射化もしている電磁ホーンですが、天井の水銀灯を瑞々しく反射させ、滑らかで張りのある姿を現しています。
 新しい第一電磁ホーンは既にターゲットステーションに置かれており、まもなく設置される予定です。メインリングの出力増強とそれに耐える電磁ホーンの交換等により、スーパーカミオカンデまで到達できるニュートリノの数は、今までの2~3倍に増加することが期待されます。

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