トピックス

2026.03.27

J-PARC News 第251号

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■ 受賞

第15回高エネルギー加速器科学研究奨励会 奨励賞 小柴賞、諏訪賞を受賞(2月27日)

 中性子利用セクションの篠原武尚氏らが小柴賞、加速器ディビジョン Saha Pranab Kumar氏らが諏訪賞を受賞しました。
詳しくはこちら(J-PARC HP)
① 小柴賞 https://j-parc.jp/c/topics/2026/03/11001764.html
② 諏訪賞 https://j-parc.jp/c/topics/2026/03/11001765.html

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■ プレス発表

(1)2種元素の添加で中低温のプロトン伝導度を著しく向上
 -既存材料を大きく上回る伝導度と、高い化学的安定性を両立 -(2月17日)

 炭素循環型社会の鍵を握る「水素エネルギー社会」において、水素と電気を高効率に相互変換できるデバイスで、200〜400℃の中低温で作動するプロトンセラミック燃料電池(PCFC)やプロトンセラミック電解セル(PCEC)は次世代技術として期待されています。しかし中低温域では高いプロトン伝導度と優れた化学的安定性を両立する材料が見出されてきませんでした。
 本研究では、酸素欠損を有するペロブスカイト型酸化物BaScO2.5に対して、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)の2種類のドナー元素を同時に添加する「ドナー共添加」という新しい材料設計を適用し、中低温で世界最高のプロトン伝導度と高い化学的安定性を併せ持つ新しいセラミック材料BaSc0.8Mo0.1W0.1O2.8を発見しました。それを物質・生命科学実験施設(MLF)の高強度全散乱装置「NOVA」で中性子回折データを用いた結晶構造解析や第一原理分子動力学計算から、高いプロトン拡散係数を生み出されていることがわかりました。さらに、ドナー共添加では、従来のアクセプター共添加で問題となっていた活性化エネルギーの増大(プロトントラップ)が生じず、低い活性化エネルギーを維持できることも示されました。
 本研究で発見されたプロトン伝導体は水素製造・貯蔵・利用を一体化した分散型エネルギーシステムの実現が現実味を帯びてくるとともに、実環境下での長期運用にも適しています。今後は本材料を電解質としたPCFCおよびPCECの試作・性能評価を進めるとともに、さらなる低温化と高出力化を目指します。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/02/17001747.html

 

 

(2)次世代「ナトリウムイオン電池」の充電メカニズムを世界で初めて直接観測!
 -中性子散乱を用いたマルチスケール観測で、ハードカーボンの謎を特定-(2月27日)

 リチウムイオン電池に代わる低コストで持続可能なナトリウムイオン電池(NIB)の普及に向け、NIBの負極に使われるハードカーボン(難黒鉛化性炭素)という材料の内部の「どこに」「どのような順番で」貯蔵されるのかというメカニズムについて、その決定的な証拠が求められていました。
本研究では、MLFの中性子小角・広角散乱装置「大観」を用い、充電中に電池内部でナトリウムがどのように動くか、メゾスケール(約1,000分の1mm以下)から原子スケール(約1,000万分の1mm)までのマルチスケールを同時に観察することに成功しました。その結果、ナトリウムが「表面に吸着」「層の間に入り」「ナノサイズの隙間を埋める」という3つのステップで蓄えられることを突き止めました。さらに理論計算を組み合わせることで、実験で得られた炭素層の変化が理論的にも妥当であることを裏付けました。
本研究により、ハードカーボンへのナトリウムの挿入プロセスをマルチスケールな観測により明確に示すことができました。本成果は、ナトリウムイオン電池の具体的な設計指針を提示するものであり、リチウムに依存しない安価で持続可能な蓄電システムの普及と、長寿命・高信頼な次世代電池の実現に向けた開発を大きく加速させるものと期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/02/27001759.html

 

 

■ 令和7年度国際諮問委員会(IAC2026)をオンライン開催(3月9、10日及び17日、J-PARC)

 IACは「大強度陽子加速器施設の運営に関する基本協力協定」に基づき設置され、J-PARCの運営、利用及び施設整備に係る重要事項について国内外の有識者が審議する委員会です。本委員会は、Robert McGreevy 委員長(Science & Technology Facilities Council, 英国)を始めとする委員16名(国外12名、国内4名)から成り、令和7年度のJ-PARCの経営、運営、研究開発活動等について提言をしました。 J-PARCは、技術的には優位性があるものの、財務・人材・設備の老朽化といった構造的課題が顕在化しており、施設の持続可能性が問われました。
 J-PARCセンターはこの提言を真摯に受け止め、今後の経営・運営や事業活動を改善してまいります。

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■ 2025年度量子ビームサイエンスフェスタを開催(3月11~13日、水戸市民会館)

 第17回MLFシンポジウム、第43回PFシンポジウム 量子ビームサイエンスフェスタ(QBSF)は、KEKの放射光実験施設(PF)とJ-PARC MLFの二施設の、放射光、中性子、ミュオン、陽電子という異なるプローブの研究者をつなぐ交流の場です。毎年、つくばと水戸で交互に開催され、今年度は607名の方が参加登録しました。
 QBSFでは、初日にPFシンポジウム、2日目は基調講演、ポスター発表、パラレルセッション、3日目にMLFシンポジウムを行いました。ポスター発表は227件の登録があり、うち63件の学生奨励賞エントリーがありました。MLFのユーザー3名が受賞し、150名を超える参加者の懇親会で表彰式が行われました。MLFシンポジウムではMLFでの成果を中心に、翌14日に開催されたサテライトの第2回ロードマップワークショップでは将来について議論をしました。

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■ J-PARCハローサイエンス「中性子を使った次世代のレントゲン」(2月27日)

 物質・生命科学ディビジョンの土川雄介氏が、中性子を使って物の中を見る技術「中性子イメージング」について紹介しました。
 中性子イメージングの大きな特徴はX線では見えにくいものも観察できる点で、例えば金属容器の中にある水の動きを見ることが可能です。物体の中にどの元素が、どのような状態で、どれくらい含まれているかまで知ることができ、試料を少しずつ回転させながら多くの画像を撮影すれば、内部構造を三次元的に再現することもできます。
 J-PARCのMLFでは、0.04秒ごとにパルス状の中性子を発生させています。このパルス中性子が試料を透過し二次元検出器へ到達する時間を測ることで、画素ごとの中性子のエネルギースペクトルを世界最高レベルの精度で解析することが可能です。MLFで得られた成果は、原子炉内部の構造調査による廃炉研究、文化財を傷つけずに調べる非破壊元素分析、電池材料や新しい機能材料の研究など、さまざまな分野で活用されています。

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■ サクリエ・サイエンス・フェスティバル(3月14日、日立シビックセンター科学館)

 J-PARCセンターでは、ハドロンアクセサリー教室、霧箱教室と、超伝導コースターの実演と体験を開催しました。
 ハドロンアクセサリー教室の整理券は、各回とも用意した枚数がなくなるほどの人気ぶりでした。霧箱教室では、放射線の飛跡を参加者全員が観察することができました。超伝導コースターの実演では、多くの子供たちが極低温や超伝導の話に耳を傾けていました。超伝導コースターの体験ブースでは、子供から大人まで多くの方が、コースターを走らせたり、超伝導体の性質を知る実験に挑戦しました。また、「導線を液体窒素で冷やすと電球が明るくなる実験」や、今回初披露となる「オレンジ色のLEDを液体窒素で冷やすと光の色が緑色に変わる実験」など、極低温ならではの不思議な実験も体験しました。

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■ J-PARC出張講座

(1)栃木県子ども総合科学館(2月21日)

 超伝導コースター体験教室をいろいろな所で実施してきましたが、その様子をご覧になった栃木県子ども総合科学館からの依頼により、小中学生を対象とした実験教室を同館くらしラウンジにて行いました。昨年10月にリニューアルされたこの施設は、参加体験型の展示物が常設され、休日には4000人~5000人程来館される人気の施設です。
 低温セクションの佐々木憲一氏が講師となり、膨らませた風船やゴムボールを液体窒素で冷やすとどうなるか?などのクイズなどを含めた実験教室を午前、午後各1回行いました。参加者は、超伝導体を用いたジェットコースターを体験したり、冷やした銅板の横を磁石が転がるときにゆっくりになる様子を間近で観察しました。

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(2)東海村立石神小学校(2月26日)

 4年生の児童約30人を対象に、MLFアウトリーチ活動グループ「ぷろとんず」が出張授業を行いました。なお、本授業は東海村歴史と未来の交流館とMLFのジョイント授業として開催されました。
 授業は、『研究の第一歩は、よく目で見ること!』を合言葉に、「泳ぎの達人 ミジンコを見よう!」、「にぼしの解剖(かいぼう)」の2つのテーマで行いました。
 小学校4年生の理科では「わたしたちの体と運動」の単元で、人の体の構造について学習します。参加した児童の皆さんは、顕微鏡を使ってミジンコの動きを観察したり、虫めがねを使って、解剖中のにぼしの体の各部分を観察することで、生き物の体の構造を通して「命」について学習しました。積極的に質問する児童も多く、非常に有意義な授業となりました。
※本アウトリーチ活動は、KEK未来基金事業「J-PARCから未来を担う若者へ科学のたねをまこう」(https://www2.kek.jp/kff/)の助成も受けて実施いたしました。

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■ ミュオンにコーフンクラブ 2025年度活動のまとめ(3月15日、東海村歴史と未来の交流館)

 3月15日(日)、19名の参加者を得て、2025年度最後のミュオンにコーフンクラブの活動が行われました。
 今回はまず、J-PARCの藤井氏による「ノーベル賞のピークを見つけられるかな?」という講演があり、2012年LHC実験でヒッグス粒子を発見した時のデータを見ながら、どれがヒッグス粒子のピークかをグループワークで検討しました。この活動を通して、“ピークには意味がある”ということに気づくきっかけを与えました。
 ついで、茨城大学の葛葉氏による舟塚古墳群2号墳に2024年 10月13日に設置した1台目の測定器の解析状況の報告があり、こちらでもグループワークで解析データを見ながら空洞(石室)候補を検討しました。解析の結果から、現段階で3箇所、空洞(石室)があると期待される領域が見つかったとの報告がありました。
 2025年11月16日からは2台目の測定器も観測が設置されたことで、測定結果のデータは着々と蓄積されています。2台目の測定器は1台目とほぼ直交する地点から透視を行っているので、2台目の測定データを解析することで空洞(石室)候補位置が特定される可能性が高まります。
 ミュオンにコーフンクラブは来年度も継続して活動を行います。舟塚古墳群2号墳の解析結果が出ましたら、改めてお伝えいたします。

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■ 加速器運転計画

 4月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 68 -15年の歳月-

 初めてJ-PARCにいらっしゃった見学者を建屋に案内すると、「巨大な工場みたい」という感想を伺うことがあります。J-PARCの各施設は極めて精密にも造られており、陽子ビーム等が通る箇所の位置精度は0.1mm以内に抑えられています。例えば全長330mのリニアックトンネルが直線を保つためには、両端が同じ標高だと仮定すると、真ん中の標高は2mmほど低くなります。地球は球であるため、全部同じ標高だと直線にはならないからです。
 15年前の東日本大震災では震度6弱の揺れが東海村を襲い、J-PARCも甚大な被害を受けました。リニアックトンネルには水深10cm以上の地下水が溜まり、浸水量は100トンにも及びました。停電が続くトンネル内では、猛烈な湿気の中、PH11という強アルカリ性の浸水を硫酸で中和しながら排水をしました。次の難関はビームの通り道の確保です。激しい揺れでトンネル自体が歪み、リニアックでは震災前と比べ、局所的には43mmも沈下している箇所が見られました。このような大きな歪みは、ビームが通る磁石の位置を調整して直線に戻し運転再開するまでに長期間を要します。そこで、床の変形にならって1か所が折れ曲がったビーム軌道を新たに設定し、位置調整をすることにしました。そして震災から8か月後の12月9日、リニアックでは再びビームを発生することができました。
 リニアックの陽子ビーム軌道は、今でも「V」字型に曲がったまま、運転を続けています。それでも、震災前に200kWだったMLFの陽子ビーム出力は、現在1,000kWにも達しています。

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