トピックス

2023.10.27

J-PARC News 第222号

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■J-PARCハドロン電源棟火災について

 令和5年6月22日(木)に J-PARC ハドロン電源棟で発生した火災により、多くの皆様にご心配、ご迷惑をおかけしたことについて深くお詫び申し上げます。
 この度、火災発生の原因究明を行い、再発防止策を検討し、J-PARC全体の安全確認をした結果を「報告書」としてまとめましたのでお知らせします。
 なお、この内容は原子力安全協定に基づき令和5年10月23日付で茨城県に提出されました。

J-PARCセンター長 小林 隆

詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/information/2023/10/24001223.html

 

 

■J-PARC施設公開を4年ぶりに現地開催(10月1日)

 不安定な天候にもかかわらず、1,163名の来場者がありました。久しぶりに公開されたJ-PARCの各施設はどこも大人気で、特に、リニアック加速器施設は午前中に全ての見学の枠が埋まり、来場者は加速空洞が330mにわたり一直線に並ぶ壮観な光景に見入っていました。展示コーナーでは、はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの石を解析した実験装置や、燃料電池自動車のカットモデルなどが特別展示され、多くの方が話題性のある展示物を興味深く見学していました。
 また、J-PARCハローサイエンスとして、センター長や研究者による5つの講演があり、J-PARCの状況、最新の研究や成果等について紹介されました。

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■プレス発表

(1)中性子結晶構造解析によって酵素ラジカル反応中間体の詳細構造を初めて解明
 -酵素を効率的に働かせるための"手品のタネ明かし"-(9月20日)

 大阪医科薬科大学、大阪大学、量子科学技術研究開発機構、筑波大学、茨城大学、理化学研究所の研究グループは、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)内に設置された茨城県生命物質構造解析装置「iBIX」を用いた実験により、銅アミン酸化酵素の触媒反応途上に形成されるセミキノンラジカル中間体の中性子結晶構造解析に成功しました。
 銅アミン酸化酵素は多くの生物に存在する酵素タンパク質で、人間の血液の中では糖尿病・動脈硬化・神経変性疾患の発病に関与していることが近年明らかになっています。この酵素は、構造を何度も大きく変え、異なる中間体となって触媒の機能を果たすことが分かっていますが、どのような仕組みで構造が変わるのかは未解明でした。また、その中間体が反応性の高いラジカルを、どうやって安定して保持できているのかも謎でした。
 研究グループは、微生物由来の銅アミン酸化酵素結晶を酸素がない状態で基質アミン溶液に浸すことによりセミキノンラジカル中間体を作り出し、iBIXを用いて中性子回折測定を行いました。高分解能の中性子結晶構造解析に成功したことで、活性中心の水素原子の位置が明らかになり、ラジカル中間体が安定に存在できる仕組みの一端を解明することができました。
 今回の研究で、酵素の精緻なメカニズムの一端が原子レベルで明らかになりました。酵素科学の分野の大きな研究テーマとして、新しい機能性を持つ酵素の分子設計、とりわけラジカル反応を中間体とする各種の有用酵素の開発に大きな進展をもたらすことが期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/09/20001209.html

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(2)自動車向け燃料電池内部の水の挙動を解明
 -中性子と放射光による観察に世界で初めて成功-(10月11日)

 株式会社 豊田中央研究所、JAEA、総合科学研究機構らの研究グループは、J-PARCのエネルギー分析型中性子イメージング装置「RADEN」とSPring-8の豊田ビームライン「BL33XU」を用いて、車載用大型燃料電池内部の水の挙動を明らかにすることに成功しました
 燃料電池の発電性能の向上には、水素と酸素(空気)から生成された水を電池の外に効率的に排出する技術の開発が必要です。そのためには燃料電池内で水はどのように滞留・排出されるのかを理解する必要があります。燃料電池は金属のケースで覆われており、実際に内部の水の動きを観察することは難しく、コンピュータを用いたシミュレーションでの予測が主でした。このため、実験によって実際の様子を観察することが強く求められてきました。
 まず、トヨタ自動車のFCEV「MIRAI(第2世代)」の実機セルを用い、J-PARCのパルス中性子ビームを使って、発電中の水のマクロな分布を観察しました。その結果、シミュレーションで予測されていた水の分布を実際に確認することができました。次に実機セルと同じ電極材料で小型セルを作成し、SPring-8の放射光X線を使って積層方向を観察したところ、ミクロな水の移動が実機セルのマクロな水分布に大きく影響を及ぼしていることがわかりました。
 本研究で開発した車載用燃料電池の水解析技術は、燃料電池の性能に影響を及ぼす滞留水の解析に応用できます。さらに、材料・流路のコンセプトの立案とその検証など、燃料電池の研究開発における様々な展開が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/10/11001218.html

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■大空マルシェ2023に出展(10月7日 、東海村)

 10月7日、穏やかな天候のもと、今年も東海村の4大まつりの一つである「大空マルシェ」が開催されました。隣り合って建立されている「大神宮」と「村松山虚空蔵堂」の境内や参道が会場という、歴史情緒あふれるロケーションの中、J-PARCセンタ-は、超伝導物質を使ったオリジナルコースターの実演と、偏光シートで作る万華鏡の工作教室を行いました。
 ブースには373名の方が来場し、超伝導物質の不思議な振る舞いや自作した世界で一つの万華鏡に、多くの驚きと笑顔が見られました。
 このマルシェはワークショップの他にクラフト雑貨やキッチンカー、音楽ライブなども楽しむことができ、幅広い年代の方々でにぎわっていました。

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■センター長が津山中学校で出張授業(9月20日)

 小林隆J-PARCセンター長が、出身地の近くにある岡山県立津山中学校で出張授業を行いました。津山市は岡山県北部の中心都市で、津山中学校は県北初の併設型中高一貫教育校です。当日は3年生79名が参加し、「大きな宇宙のひみつと、ミクロな世界のひみつと、加速器と」というテーマで授業を行いました。
 まず、大きな宇宙と小さな素粒子の関係について解説があり、小さな素粒子を見るためには大きな加速器が必要であることが説明されました。そして、J-PARCの紹介とともに、科学を学ぶ楽しさについても述べ、この機に、科学の世界により興味を持ってほしいとのメッセージが送られました。

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■KIPP中目黒〜中目黒小学校子ども教室〜開催(10月11日)

 目黒区立中目黒小学校において、「世界最小?ふしぎなコマを作って、素粒子の世界にふれよう!」と題する講座を開催しました。加速器ディビジョンの大谷将士氏が講師を務め、小学校1〜4年生までの児童14名に、まず、宇宙や素粒子についてわかりやすく紹介しました。地球コマの実験では、子どもたちはいかに長くきれいにコマを回すかに熱中し、また、歳差運動が回し方の違いによって起こることにも気づきました。手作りのコマの実験では、大きなコマと小さなコマをつなげて実験するなど、自由な発想で実験を楽しみました。
 事後アンケートを見ると、「陽子や素粒子があることを初めて知った」、「歳差運動を初めて知った」という回答があり、実験を楽しみながら素粒子の世界に触れてくれたことが推察されました。

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■「宇宙線ミュオンで古墳を透視プロジェクト」で巨大な古墳を探検(9月17日)

 9月17日に34名が参加し、東海村内にある舟塚古墳群2号墳、権現山古墳、真崎古墳群を見学しました。
 まだ暑さが残る中、東海村歴史と未来の交流館学芸員の中泉⽒と林⽒の解説やクイズを楽しみながらの古墳⾒学となりました。参加者は普段、なかなか古墳に登るという機会がないので、古墳に足を踏み入れることができ、とても喜んでいました。また、実際に古墳に登って、その大きさや高さに驚いていました。宇宙線ミュオンで透視する舟塚2号墳の見学では、草木に覆われ鬱蒼とした古墳の中に入って行きました。そのため、探検しているような感じがしてワクワクしていたようで、子どもの心に響いたのではないでしょうか。
 また、舟塚2号墳で林⽒が埴輪の破⽚を見つけたので、子どもは埴輪にも興味津々で、自分たちも拾いたいとの声もありました。
今⽉で今年度の講座や⾒学会は終了し、これからはいよいよ後半戦、測定器の実機を製作する活動が始まります。こちらの活動も逐次、ご報告いたします。
※東海村、J-PARCセンター、茨城大学、東京都立大学主催で、今年4月より活動しているプロジェクト。

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■「J-PARC講演会2023」開催のお知らせ(11月25日、東海文化センター)

 11月25日(土)、J-PARC講演会2023「ミュオンで創(つく)る未来-みえないものをみる-」を開催します。
 はやぶさ2が採取した小惑星リュウグウのサンプル分析や、リチウムイオン電池内部の観察といった研究成果について紹介するとともに、村内の古墳内部を非破壊で調べるプロジェクトについてもご紹介します。
お申込み等、詳しくはこちらをご覧ください。https://j-parc.jp/symposium/lecture2023/

 

 

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J-PARCさんぽ道 ㊴ -施設公開受付の朝-

 一番乗りの方は、雨の中、6時台に受付のテント前に並ばれました。受付開始直前には80名の列になっています。12台のバスにはドライバーが乗り込み、発車を待ちます。見学の皆様はここ日本原子力研究開発機構本部で受付を済ませ、J-PARC施設公開会場までシャトルバスにご乗車いただくことになります。
 施設公開は皆様方にJ-PARCのことを理解していただく場です。しかしそれは、施設や装置をお見せし、解説するだけの一方通行の場ではありません。施設公開では多くの皆様がどこに興味を持ち、J-PARCにどんな期待をされているかをじかに知ることができます。今後のより良い広報活動を行うための貴重な機会になるのです。さらに皆様からいただいた質問やコメントの中から、J-PARC内部にいる我々が思いもよらなかった斬新なアイディアが見つかるかもしれません。我々は皆様の声に対して耳を傾け、お互い知恵を出し合うことができればと思っています。
 大勢の皆様を乗せたシャトルバスが次々に発車していきます。今回の施設公開が、見学の皆様にとっても我々にとっても、実り多いものになるように願いを込めて、皆様をお見送りします。

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