■ J-PARC News 第167号より       (2019/03) 
●J-PARCハドロン実験施設のKOTO実験が中性K中間子の稀な崩壊で世界最高感度を
十倍更新 - 「物質と反物質の違い」の解明に第一歩を踏み出す -  (3月4日、プレス発表) 
  宇宙誕生時に同じ数つくられたと考えられている物質と反物質は出会うと消滅します。これまでの実験からわかっている物質と反物質の性質の違い (2008年ノーベル物理学賞の小林・益川理論) だけでは、物質と反物質の数のアンバランスが十分な大きさにならないことがわかってきました。どうやって物質から成るいまの宇宙ができたのかの謎を解くには、新しい物理による物質と反物質の違いを見出す必要があります。中性のK中間子はいくつかのパターンで崩壊しますが、中性のパイ中間子とニュートリノ対への崩壊は、物質と反物質の違いが小林・益川理論によるものだけなら300億回に1回、新しい物理に起因する違いがあれば、その数倍〜数十倍多くなると予想されています。従来の加速器よりも桁違いの数の粒子を生成するJ-PARCで新しい実験 (KOTO実験) を開始し、今回、これまでの加速器で必要だった日数の十分の一以下に当たる2カ月強の期間の実験で、この崩壊パターンが3億回に1回よりも少ないことを示しました。これまでの実験で得られた「4000万回に1回以下」からは約十倍の感度更新です。KOTO実験はデータ収集を継続しており、さらにデータを蓄積すれば小林・益川理論による予想からのずれの有無を見極められるでしょう。
  詳細はJ-PARC ホームページをご覧ください。http://j-parc.jp/ja/topics/2019/press190304.html

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●相転移の狭間に出現する新たな創発磁気モノポール格子 - 二つのトポロジカル磁気構造が移り変わる様子を解明 -  (3月5日、プレス発表) 
  電子スピンの集合体の一種であるトポロジカル磁気構造は、スピン配列の幾何学的性質を使った新しい磁気メモリーデバイスへの応用が期待されています。本研究では、MnSi (渦状スピン集合体の格子を持つ) とMnGe (球状スピン集合体の格子を持つ : 創発磁気モノポール格子) の混晶系であるMnSi1-xGexについて、SiとGeの組成比を系統的に変えて作製した試料をJ-PARCの中性子小角・広角散乱装置「大観」を用いて測定しました。大観では小さい散乱角 (スピン集合体同士の大きさが分かる) と広い散乱角 (スピン集合体の配列方向が分かる) に散乱される中性子を同時に測定することにより、このような複雑な磁気構造を詳しく調べることができます。その結果SiとGeの量が同程度となる中間組成領域において、MnSiとMnGeのどちらとも異なる、球状スピン集合体が面心立方格子状に配置された新しい創発磁気モノポール格子ができている可能性が示されました (下右図) 。この結果はSiとGeの原子半径の違いに起因する有効的な圧力効果によってトポロジカル磁気構造が制御できることを示しており、新たなトポロジカル磁気秩序を持つ物質を開発する上で重要な指針となります。
  詳細はJ-PARCホームページをご覧ください。http://j-parc.jp/ja/topics/2019/press190305.html

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●芳香族炭化水素の圧力誘起重合反応メカニズムの解明 - 原子種を制御したグラファン設計へ道筋 -  (3月8日、J-PARC HP掲載) 
  ベンゼンに代表される芳香族炭化水素に約20万気圧の圧力をかけると、炭素同志がダイヤモンドのように結合した物質が形成されることが知られています。それらは高い引っ張り強度や非圧縮性などの有用な特性を持つことから圧力誘起重合は新しい重合方法の一つとして着目されています。しかしながらこれまで、その詳細な反応メカニズムに関しては分かっていませんでした。本研究では、ベンゼン結晶の一部をヘキサフルオロベンゼン (C6F6) に替えたものを約20万気圧まで加圧することによって、炭素シートの上下が水素およびフッ素で終端されたH-Fグラファンを合成し、高圧下における中性子その場観察および回収試料の分析を行うことで重合メカニズムを解明することに成功しました。この中性子その場観察は、世界でも例を見ない約20万気圧での中性子回折実験ができるJ-PARC物質・生命科学実験施設 (MLF) の高圧ビームラインPLANETで行われたものです。実験の結果から、加圧に伴い異種の分子に属する炭素同士が近づき、最終的にディールス・アルダー反応により重合が起こることが明らかになりました (下右図) 。この成果は、今後、原子種を制御した反応設計につながることが期待されます。
  詳細はJ-PARCホームページをご覧ください。http://j-parc.jp/ja/topics/2019/topics190308.html

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●J-PARC国際アドバイザリー委員会IACなど開催 (2月14日〜3月5日、J-PARC) 
  2月中旬から、T-TAC (核変換) 、NAC (中性子) 、A-TAC (加速器) 、MAC (ミュオン) の各サイエンス領域に関する一連のアドバイザリー委員会が順次開催され、3月には、J-PARC全体にかかるIAC (国際アドバイザリー委員会) が開催されました。IACでは、齊藤直人センター長がJ-PARCの現状と将来計画、J-PARCセンターの安全統括を担当する石井哲郎副センター長が安全への取り組み状況を報告しました。また、今回の委員会では初の試みとして、物質・生命科学と素粒子・原子核物理分野における若手研究者による研究紹介のパラレルセッションが行われ、委員の方々に好評でした。まとめとして、委員長から、MLFの安定運転により着実な成果の増加が見られたこと及び、施設運営の方向性が高く評価されました。

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●2018年度量子ビームサイエンスフェスタ 第10回MLFシンポジウム / 第36回PFシンポジウム (3月12日〜13日、つくば国際会議場) 
  2018年度の量子ビームサイエンスフェスタがKEK物質構造科学研究所、J-PARCセンターMLFの共同主催で開催され、量子ビーム (放射光、中性子、ミュオン、低速陽電子など) を利用した物質・生命科学研究を推進する研究者、技術者、学生ら約580名が一堂に会し、研究成果の発表や当分野研究の現状及び将来展望について議論が行われました。12日は合同セッション、13日はパラレルセッションで、MLFシンポジウム (中性子・ミュオン) では地球科学に関わる研究などユーザーを中心とした研究成果の発表とともに、施設側からはミュオン生成標的の現状、高出力運転に向けた水銀ターゲットシステムに関わる将来計画などの報告があり、活発な質疑応答が行われました。また、2020年度内のJRR-3の運転再開を目指す現状などについてJAEAの武田全康氏が講演しました。

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●岡山大学J-PARC 分室設置に向けて覚書を締結 (3 月14 日、東京) 
  3月14日、槇野博史 岡山大学長、山内正則KEK機構長、齊藤直人J-PARCセンター長らが出席し、「KEKと岡山大学との間における教育、研究のための拠点の構築に関する覚書」調印式が一橋大学一橋講堂において執り行われました。この覚書締結により、KEK東海1号館に岡山大学J-PARC分室が設置され、J-PARCで研究を行う岡山大学の研究者や学生の利便性等が向上し、J-PARCとしても岡山大学の英知の活用や関連研究分野の発展等さらなる教育研究の推進が期待されます。岡山大学は、J-PARCにおいてニュートリノ実験 (T2K) 、MLFでの中性子やミュオンを使った各種研究を推進しており、このJ-PARC分室設置により、J-PARCセンターと岡山大学はさらに緊密な研究協力関係を構築していきます。
  ※ 平成28年3月大阪大学、平成29年2月京都大学、平成30年3月九州大学、平成30年10月名古屋大学に続くものです。
   
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●J-PARCハローサイエンス 〜 中性子線を使ってリチウムイオン二次電池を見える化する 〜 (2月22日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」) 
 
  2月のサイエンスカフェは、中性子利用セクションの米村雅雄氏が、MLFの特殊環境中性子回折装置 (BL09 SPICA) の中性子線を使った電池開発の最前線について講演しました。電池の劣化や安全という観点から、一般に広く使われているリチウムイオン二次電池では、電池内部でどんな反応が起こっているのか、性能を上げるにはどうしたらよいかを、電池の充・放電時の電極構造の変化をリアルタイムで観測したデータを示して説明しました。また、全固体電池と呼ばれる次世代電池では、電解液に代わる固体リチウムイオン導電体の中を動くイオンの可視化研究の進展により、数年後には、産業応用例として固体電池搭載車の開発が進む現状が紹介されました。会場からは、製品化された電池性能の信頼性、品質評価の方法についての質問などがありました。
   
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●第13回東海フォーラム「平成から次の時代へ、原子力機構東海地区のこれから」で研究紹介 (2月28日、東海産業・情報プラザ「アイヴィル」) 
 
  日本原子力研究開発機構は、2月28日に地域の方々へ当機構東海地区の現状と今後について報告を行うための東海フォーラムを「アイヴィル」で開催しました。J-PARCセンターからは齊藤直人センター長がJ-PARCセンターの概況について、また、中性子利用セクションの佐野亜沙美 研究副主幹が「中性子を利用した高圧地球科学―水惑星・地球の理解を目指して」をテーマに講演しました。地上で20万気圧・数千度の試験環境を作り出すMLFの超高圧中性子回折装置 (BL11 PLANET) を利用して、地球の深部がどうなっているのかを調べる研究の一端が紹介されました。
   
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●加速器運転計画
  4月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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