MLF月間報告2017年11月

研究成果

BL02 中性子準弾性散乱による心筋症原因トロポニン変異体のダイナミクス解析(QST 藤原グループ)

心筋収縮は、筋肉の2種類の主要な蛋白質複合体、細いフィラメント(アクチン、トロポミオシン、トロポニンから成る)と太いフィラメント(主としてミオシンから成る)が互いに滑ることで生じる。収縮のCa2+による調節は、トロポニン(Tn;3つのサブユニットTnC、 TnI、 TnT から構成される)により行われている。TnCにCa2+が結合すると、その情報がTnI、 TnT、 トロポミオシンを通してアクチンへ伝達され、アクチン-ミオシン相互作用を誘起することで収縮が生じる。このTn分子内の様々な遺伝的変異が、収縮調節機能に異常をもたらし家族性肥大型心筋症を引き起こすことが知られている。種々の変異の内、TnTのK247R変異はCa2+結合シグナルの伝達経路の途中にあるため、収縮調節機能の点から特に重要な変異である。この変異は、TnのCa2+感受性を変化させずに収縮力を増大させるという機能異常を伴うが、変異によるTn分子の物性変化は未だ明らかではない。特に、Tnは複数の構造を取る柔軟な蛋白質であることがX線結晶構造解析によって示唆されているため、分子の”やわらかさ”という観点から心筋症発症機構解明にアプローチすることが必須である。

本研究では、蛋白質機能発現の素過程であるピコ秒ダイナミクスに着目し、K247R変異によるTnのダイナミクス変化を明らかにするために、正常型Tn及びK247R変異型Tnの溶液試料について、それぞれCa2+有無の両条件下で中性子準弾性散乱実験を行った。その結果、正常型Tnでは、Ca2+結合によって蛋白質内部の局所運動が速くなると共に、その振幅は減少することが分かった。一方、変異型TnではCa2+の有無に関わらず局所運動が速く、Ca2+結合により振幅が増大した。Ca2+結合状態における変異型Tnの運動振幅は正常型Tnよりも大きく、このことは、変異型Tnが、より広い構造空間を揺らぐことを示唆している。変異による機能異常が観測されるのはCa2+結合状態であるため、変異型Tnのこのような分子内揺らぎの増大が、機能異常ひいては疾患発症に関連していると考えられる。

参考文献
  1. Tatsuhito Matsuo, Taiki Tominaga, Fumiaki Kono, Kaoru Shibata and Satoru FujiwaraBBA - Proteins and Proteomics 1865:1781–1789 (2017)

装置整備

BL16 データリダクションソフトSOFIA converterのアップデート

J-PARC MLFのBL16に設置された中性子反射率計SOFIAでは解析ソフトウェアIgorをベースとしたデータリダクションソフトを提供している。このソフトはGUIを備え、初心者でも変換可能な作りとなっている。 今回、更なる信頼性と効率性の向上を目的として以下の機能強化を行った。
・サンプルのミスアライメントやサンプル自身が歪んでいる際の補正を行うよう、データの変換アルゴリズムを強化した。
・絶対値への規格化を行うアルゴリズムを変更することで稀に生じていたエラーを解消すると共に、グラフ上のカーソルによるデータ点の選択等を実装することによりIgor特有の操作性を可能な限り排除し、よりユーザーフレンドリーなインターフェースを実現した。
・ユーザーからの要望があった細かなインターフェース、操作性の改良を行った。
・マニュアルを更新し、これまでの細かなバージョンアップによる機能強化についても明文化した。

図1 SOFIA converterによるデータ変換の流

論文リスト

学術誌

プロシーディングス

その他刊行物

受賞

平成29年度原子力研究開発機構理事長表彰【研究開発功績賞】

  • 2017-11-06

学会発表

International Advisory meeting on the conceptual design of neutron scattering instruments at CSNS

日時:2017-11-16 - 2017-11-16
場所:中国/深セン

第39回日本バイオマテリアル学会大会

日時:2017-11-20 - 2017-11-21
場所:タワーホール船堀

エラストマー討論会

日時:2017-11-29 - 2017-11-30
場所:京都大学