MLF Monthly Report 2017-05

研究成果

BL01, BL12, BL20 La5Mo4O16の磁気構造と磁気励起の研究

  • CROSS
  • J-PARC
  • 早稲田大
  • 茨城大
  • KEK

La5Mo4O16は、4d電子を持つ局在電子系である。最近La5Mo4O16では、磁気抵抗、磁化の長時間緩和、悪魔の階段等の特異な磁性が観測され、そのミクロスコピックな起源が注目されている。さらに近年4d電子系は、スピン・軌道相互作用により特異な振る舞いを示すことが期待されており、そのような観点からもLa5Mo4O16は注目されている。

本研究では、MLFのiMATERIA (BL20)を用いた中性子回折実験、HRC (BL12)と4SEASONS (BL01)を用いた中性子弾性散乱実験を複合的に用いることで、La5Mo4O16における磁気構造と磁気励起の研究を行った。磁気構造解析により磁気構造(図1)を、磁気励起スペクトルのスピン波解析(図2)によりモデルハミルトニアンを、それぞれ決定した。これらの結果は、La5Mo4O16における特異な磁性を説明する微視的なモデルを与えるものである。さらに磁気反射近傍で磁気異方性を示すスピンギャップを観測し(図3)、La5Mo4O16におけるスピン・軌道相互作用に関する議論も行った。

参考文献
  1. K. Iida et al., J. Phys. Soc. Jpn. 86, 064803 (2017).

図1. iMATERIAでの測定から決定したLa5Mo4O16の磁気構造。

図2. HRCで測定したLa5Mo4O16の磁気励起マップ。

図3. 4SEASONSで測定したLa5Mo4O16の[3, 6.5] meVでのQ依存性。

BL12 遍歴電子反強磁性体 γ-Fe0.7Mn0.3 におけるスピン波励起の減衰

  • KEK 井深壮史, 伊藤晋一, 横尾哲也, 遠藤康夫
  • 理研CEMS 遠藤康夫
  • 東北大理 遠藤康夫

鉄系高温超伝導体においては、磁気励起の超伝導への関与が指摘されている。鉄系超伝導体母物質のスピン波励起には、高エネルギー領域において異方的な減衰が見られる[1]が、その機構は十分理解されていない。このような背景から、遍歴電子系反強磁性体の典型的なスピン波励起への関心が高まっている。古くから研究されてきた遍歴電子系反強磁性体には金属クロムやその希釈合金があるが、スピン波速度が非常に大きい(> 1000 meVÅ)[2]ため、減衰について議論するのは困難である。そこで、今回我々は別の遍歴電子系反強磁性体γ-Fe0.7Mn0.3に注目し、J-PARC・MLFのBL12に設置されている高分解能チョッパー分光器(HRC) [3]を用いて、その高エネルギー領域(< 100 meV)のスピン波励起を調べた。

磁気散乱は、高いQ領域では磁気形状因子の影響を受けて弱くなるため、スピン波励起は低いQ領域で観測されることが望ましい。HRCでは低散乱角側に検出器が設置されていることから、低いQ領域の観測が可能である。さらにHRCでは、高い入射エネルギーを用いた高いQ分解能での測定が可能であり、高エネルギー磁気励起の観測に最適である。

図1は、T = 14 Kにおけるγ-Fe0.7Mn0.3のスピン波励起の分散関係を示したものである。40 meV以上ではスピン波励起は反強磁性スピン波の分散関係ħω2 = c2q2 + ⊿2から逸脱し、直線的な分散関係を示すことがわかる。また、ここには示さないが40-60 meV以上では、スピン波励起の減衰因子の急激な上昇ならびに、磁気散乱強度の減少が観測された。これらの興味深い一連の結果は、スピン波励起が40 meV付近で粒子空孔励起の連続帯領域に入ったことを示している可能性があり、今後の理論的な研究が期待される。

本研究成果は、Phys. Rev. Bに掲載受理された[4]。 HRCでの中性子散乱実験は、S型課題(2014S01, 2015S01)により実施された。

参考文献
  1. [1] 例えば、S. O. Diallo et al., Phys. Rev. Lett. 102, 187206 (2009).
  2. [2] J. Als-Nielsen et al., J. Appl. Phys. 42, 1666 (1971).
  3. [3] S. Itoh, et al., Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. A 631, 90 (2011).
  4. [4] S. Ibuka, S. Itoh, T. Yokoo, and Y. Endoh, Phys. Rev. B, in press. (arXiv:1612.02515)

T = 14 Kにおけるγ-Fe0.7Mn0.3のスピン波励起の分散関係。

装置整備

BL23

POLANOでは真空ポンプのメンテナンスとそれに伴うPLCの改造、また冷却水流量計の不具合などの工事をおこなった。POLANOで導入している大型真空散乱槽は、MLFの他のビームラインで導入している真空槽と同様に、1)空気による散乱を抑制し、2)冷凍機など試料環境機器のための断熱真空が主目的である。したがって、20m3程度を比較的早い時間で、10-4Pa以下まで真空引きする必要がある。我々は、メカニカルブースターポンプ+ルーツポンプによりCrossover Pressure(15Pa)までの掃引をおこない、その後クライオポンプにより10-4Paを達成する。POLANOでは真空槽真空試験を始め、3×10-4Paの真空度を確認した。現在、gas desorption rateを知るために、build upによるガス放出を測定している。

論文リスト

学術誌

プロシーディングス

学位論文

BL11
BL16

その他刊行物

受賞

Highlights of 2016 in Measurement Science and Technology

  • 2017-05-04

研究会

JPGU-AGU Joint Meeting 2017

日時:2017-05-20 - 2017-05-25
場所:幕張メッセ

International Collaboration on Advanced Neutron Sources (ICANS XXII)

日時:2017-03-27 - 2017-03-31
場所:University of Oxford, UK