対向磁場を用いた50GeVリング入射用セプタム電磁石の開発
OPPOSITE FIELD SEPTUM MAGNET SYSTEM


 従来のビームの入射・取り出し用のセプタム電磁石は、セプタム導体を介して、ビームの取り出し軌道のみに磁場を発生させ、周回軌道側の磁場はゼロとするものであった。このため、特に強磁場で使用するセプタム電磁石の場合は、セプタム導体が過大な電磁力に晒される。また、セプタム電磁石の機能の面から、なるべく薄い構造のセプタム電磁石が求められる。大強度陽子シンクロトロンの場合、ビームサイズが大きいので、セプタム電磁石の口径も大きくなる。大サイズで、薄い厚さの、磁場の高いセプタム電磁石は、設計が大変難しい。

 ここで紹介する対向磁場を用いたセプタム電磁石は、周回軌道側にも逆向きの磁場を発生させて、周回軌道と取り出しビームの軌道を分離するものである。セプタム導体を挟んで等しい大きさの逆向きの磁場によって、セプタム導体に働く電磁力が相殺されるため、セプタム導体に力は働かない。また、漏れ磁場も相殺されるため、精度の高いセプタム磁場を実現できる。(現在KEKより特許出願中)

 この場合、周回軌道側の逆向きの磁場は、上流と下流に設置された2台の補助バンプ電磁石で相殺され、周回ビームの軌道を乱すことはない。また、この2台の補助バンプ電磁石は、入射ビームの軌道を周回ビームとは逆の方向に偏向させるため、ビームの取り出し角を大きくする利点がある。このため、同じ取り出し角度に対して補助バンプ電磁石を含めた磁石全体の長さの合計は、通常のセプタム電磁石と変わらず、とくにセプタム電磁石本体の長さは、従来型のセプタム電磁石の半分になる。

 この新しい原理により、50GeVリング入射用に、薄くて強力なセプタム電磁石が製作可能となった。その結果、セプタム導体を挟んだ、周回ビームと入射ビームの双方の有効スペースを十分に取ることにより、ビーム損失の少ない入射システムの設計が可能となった。


50GeVリング入射用セプタム電磁石


対向磁場セプタム電磁石(中央)を使った入射原理

主なパラメーター  
  
OppositeField Septum
Bending angle mrad
30
Magnetic field T
0.60
Pole length mm
700
Pole gap mm
120
Pole width mm
355
Thickness mm
8
Current kA
63.7

KEK一般公開パンフレット2004より